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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

「この辺でよかろう。駕籠とめい!」

同時に二挺の駕籠が下り、タラタラと一同居並んだ。カタンという戸の開く音、一挺の駕籠から現われたのは、緋の衣にときん篠懸け、羽団扇を持った人物で、天狗の面をかぶっている。すなわち僧正天狗である。据えられた床几に腰を下ろすと、まず悠然と見廻した。

「江戸を離れる数里の山間、おそらくあたりに人もあるまい。連判状を読み上げい」重々しい声でいったものである。

「はっ」というと一人の天狗、髪は総髪、法眼袴、威風あたりを払うのが、スルスルと前へ進み出たが、懐中から巻物を取り出した。

と、スッ――と上へ持ち上げ、徐々にキリキリと巻きほぐす。と、読み出したものである。

「それ人は天地の精、人ありて万物備わる。この上に立って支配するもの、みかどにあらずんばあるべからず。わが日東扶桑国、いにしえより上帝臨幸し、教えを垂れ、神を敬い、下を恵み、皇統連綿、無窮に伝え、国は神国、仁義堂々、諸域にまさる。中古代わって政をとるもの、源家以来将軍と称す。その威年々盛んにして、あえて朝威を傾けんとす。これ尊王の大義を忘れ、人臣の礼を欠きたるもの。しかも驕慢四民を悩まし、下苛政を恨まざるなし。