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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

「そう」とちっとも驚かない。「で、何かお取りになって?」

「やりきれねえなあ」と思ったが、「途方もないものをもらって来ました」

「見せてちょうだい、どんなもの?」

「それがね、ちょっと見せられません」

「なぜでしょうね。見せてちょうだいよ」

「形のないものでござんす」

「形のないもの? では夢ね」

「うまいことをいう」とつぶやいたが、「いえ『言葉』でございます」

「『言葉?』」と君尾は打ち案じた。どうやら意味がわからないらしい。

「内丹説というもので」

「内丹説?」と首をかしげる。「何かのご用に立ちますの?」

「へい、さようで、泥棒のね」

「ねえ」と君尾築山から、二、三歩下へおりて来た。「ご存知なくて、袴様を?」

「さあ」とこれにはこまってしまった。「どういうお方でございますか?」

「よいお方でございますの」

「いずれよいお方でございましょうな。あの、お嬢様のお仲好しで?」

「ええそうよ、兄弟のように」

「夫婦のようではございませんかね」

「ええそうなるかもしれないの」

「ひどくサッパリした返辞だなあ」忠三感心をしたものである。「でもね、お嬢様」と進み寄った。「その袴様という人が、ほかのお嬢様に恋せられ、一緒に住んでいたとしたら、あなたは何んとなされますな?」