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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
「渡り鳥が来たようでございますね。満天星の葉を散らしています。おや、椋鳥でございます」こういったのはイスラエルのお町。
「よい季節になりましたな。ははあなるほど、椋鳥が」
不意にあたりが暗くなった。とバラバラと音がした。時雨が降って来たのである。だが見る間にあがってしまった。そうしてすぐに陽がさして来た。どこからか謡曲の声がした。と、かおってくる木犀の香! パチッパチッと囲碁の音! 隣りで烏鷺を戦わせるらしい。
ちょっとの間沈黙する。とまたお町話しかけた。
「落ちあゆの季節になりました」
「ああいかにもな、落ちあゆの季節」
「カマスやヒシコや小がれいや、かじきまぐろの盛りだそうで」
「さようさよう、そんなようで」
「からいも、八頭、蓮根、ごぼう、市場へ出たそうでございます」
「秋はよろしゅうございますなあ」
「初雁、虫の音、花壇の手入れ、歌をよむ方やお百姓などは、さぞ忙しいでございましょう」
「さぞ忙しいでございましょう」
「牡丹や、芍薬や、幽蘭の、根分けをしなければならないそうで」
「そんなあんばいでございますな」
「妾、ゆうべきぬたの音を、耳にしたようでございます」