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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
白衣の修験者をクルクルと、武士の一団が取り巻いたのは広い春日町の四辻で、「何か起こるな!」と思った時、はたして意外な事件が起こった。まず修験者が立ちどまり、サーッと鉄杖を揮ったものである。とたんに二、三人バタバタと、もろくも武士が地に倒れた。と思った一瞬間、修験者の姿が消えてしまった。しかし間もなく宮坂町の方から、きわめてかすかではあったけれど、ジャラーンという音が聞こえて来た。
あッと思う間の出来事である。
広太郎はぼんやり突っ立ってしまった。
「あの早業、あの力量、あの男に相違ない。……だがいったい何者だろう?」
その時である、耳もとで、つぶやく声が聞こえて来た。
「お嬢様にご用心なさりませ。……あぶのうござります。……ご用心」
振り返って見ると一人の男、浅黄のずきんにうこんの袖なし、伊賀袴をはき一本差し、人形箱を胸へ掛けた、古風の傀儡師がうつ向き加減に、足のつま先を見詰めながら、すべるように右手を通って行く。ずきんの下からはみ出しているのは半白になったかみの毛で、年はそちこち五十五、六。たくましい頸、怒った肩、くくりあごの下ぶくれ、横顔ばかり見せていたが、ワングリと高い立派な鼻、食いしばったような口もとなど、一癖も二癖もあるつら魂。