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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

こう思った拍子に広太郎の心へ、突然記憶がよみがえって来た。「小梅の寮……島原城之介……そいつの鉄杖でドッシリと……そうだ。おれはたたかれた筈だ。……それから? それから? どうしたかな?」それからのことはわからなかった。「気絶をしたんじゃアあるまいかな?」ふとここへ気がついた。

「うん、どうやら気絶したらしい。そうしているうちにこんなところへいつか運ばれて来たらしい。……とするとここはどこなんだろう? そしていったい何者が、おれをこんなとこへ運んだのだろう?」これはすぐにも考えることが出来た。

「城之介めだ! きゃつに相違ない!」思わず声に出していったものである。すると全く意外にもすぐ手近から返辞が来た。

「袴氏、目ざめられたかな」聞き覚えのある、しわがれた島原城之介の声である。

驚いた広太郎痛みも忘れ、ムックリとばかり起きあがった。とまた城之介の声がした。

「お騒ぎなさるな、危害は加えぬ。珍客でござるもの、なんの危害を。……」つづいて笑い声が聞こえて来た。「アッハッハッハッ珍客珍客。しかし人質といってもよろしい」

声のする方へ眼をやった。やみの暗さを一層黒め、一個の人影がうずくまっていた。