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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
と見ると往来には人気なく、あおあおと光が漲っている。月光の中に立っているのは、白木綿のような真っ白の人物。余りに身長が高いので、仰ぎ見なければならなかった。
「妾をお召しでございますか」
「従いておいで、イスラエルの宮へ」
「はい有難う存じます」
「選ばれた処女、恐れるには及ばぬ」
ユラユラと歩く後につき、屋敷の角をまがろうとした時、真っ黒のものが飛び出して来た。
「売僧!」
「無礼者!」
「人さらいめ!」
ジャラーンと鳴る鉄杖の音、ヒューッと風を切る木刀の音、「うん!」といううなり声。ドッと倒れた人間を踏まえ、突っ立ったのはほかでもない、傀儡師の言葉に不安を覚え、一夜警護に当っていた、袴広太郎その人であった。
「お出合いなされ! お出合いなさい!」
わめいた声を聞きつけて、小松原家から家人が来た。
そこへバラバラと走って来たのが、市中見廻りの八丁堀の同心。
「おお袴氏と仰せられるか、こやつ邪教徒、しかも人さらい、捕えあぐんだ曲者でござる。ようこそお捕えくだされた。お渡しくだされ、引っ立てて参る」
「それはご苦労、お連れくだされ」
「今後もお娘ごにご用心」
見ればお京、気絶している。