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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
築土の死骸は谷底にあった。だが巻軸は持っていなかった。お前が取ったに相違ない」
「いやおれは取りはしない」
「ではお前はどこまでも、巻軸のありかを知らないというのか?」
「いや巻軸は持っている。だが築土から取ったのではない。袴広太郎というさむらいから、全く偶然手に入れたのだ」
「そうか、そんなことはどうでもいい。とにかくそいつをこっちへ渡せ。そうしたら命だけは助けてやろう」
そこで城之介は懐中から、例の巻軸を取り出すと、天草時行へ渡し、のがれて行方をくらましたのである。
ところでこの夜袴広太郎は、城之介のために誘拐され、傾城塚の中にいた筈だが、その運命はどうなったかというに、女達と一緒に火焔をくぐり、塚から外へ逃げ出したのであった。負傷している上に神気つかれ、ほとんど人心地もなかったので、それこそあてなしにヨロヨロと藪の中を逃げ廻っていたが、おのずと裏口の方へ行ったものとみえる。「袴様!」と呼ぶ声がした。ヒョイと見るとイスラエルのお町が、忠三と一緒に走って来る。
「おっ、お町殿!」といいながら、そっちへ向かって走り出した時、塚から逃げ出した大勢の女が、二人の間をかけ隔ててしまった。