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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
これは捨ててはおかれない。これ野郎ども介抱せい! ……あのお方以外には乗せられない駕籠だが、場合が場合仕方がない。このおさむらいさんをお乗せ申せ」
で、広太郎は助けられたのである。
小鎌を月光に輝かせ、しだいしだいに足並みを早め、やがて藪地の裾をめぐり、その一隊が立ち去った時、藪の奥から女の声がした。
「袴様!」と血をはくような声だ。
藪をおしわける音がして、現われたのはイスラエルのお町で、もう一度呼んだが答えがなかった。でベタベタと地面へ坐ると、茫然として考え込んでしまった。地上に無数の足跡がある。それへお町は目をつけたが、
「みんなつま先で歩いているよ、多勢の木地師が通ったと見える」
さてその木地師の一隊だが、しのびやかに江戸へはいったのは、それから程経た後のことであった。
やがて来かかったのは紀州家のやかたで、例の老人が裏門をたたいた。「誰じゃ!」と門内から声がした。「富士見の将右衛門!」と老人が答えた。
と、ギーと門があき、スルスルとはいって行ったその老人、しばらくの後出て来たところを見ると一挺の女駕籠を先立てていた。
それを守って今度こそ、どことも知れず立ち去ってしまった。