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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

一人で石を置き出した。「黒六のハネ手はこれでよい。……白七の手で十三に入れば、黒十一でおさえてよろしい。……白十五に対する黒十六、白十七に対する黒十八、適切な手筋といってよかろう。……」盤面から顔を上げて四辺を見た。不愉快そうに舌打ちをした。「騒々しいなあ、なんということだ。よっぽど趣味のない連中だよ。飲んで酔っぱらってしゃべりまくって、剣道自慢に力自慢、能といえばそれだけしかない。……人間そんなものでいいものかしらん? ……囲碁は本来戦術で、非常に科学的の遊びだが、心をおちつける助けにもなる。……忠弥めが少しは打つらしいが、あのガサツでは仕方がない。……そういう忠弥め酔っぱらって、真っ青な顔をして眼を据えている……あいつおれには虫が好かないよ」また盤面へ食い入った。「黒八、十とこれでよろしい。十四までの別れ申し分なしと。白を一隅へ屏息せしめ、外に向かって驥足を伸ばす。この作戦われながらよいて。……」また八左衛門顔を上げた。「どいつだ、いびきをかいているのは。ほううそうか、伝達坊主か」ニヤニヤ笑ったものである。

墨染めの法衣の胸をはだけ、ムシャムシャした胸毛を露出させ、肘枕をした大坊主が、陣幕の裾に眠っていた。