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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

爾来兵庫累進し、おそば去らずの寵臣とはなったが、昔のことは忘れない。正雪を先生と呼んでいた。しかし今夜は正式でなくとも、大納言の使者である。で、厳然と威儀を正し、

「さて早速に申し上げる。承れば由井殿には、島原と申す修験者を、おかくまいあると申すこと。しかるに紀州大納言様には、該修験者とは懇密でござる。で至急に修験者を、お屋敷から追放なさるようこの段しかと申し入れます」

「ははあ」といったものの正雪にとっては、これは意外の言葉であった。「いかにも島原城之介と申す、怪修験者はかくまいおりますが、どうしてそれを大納言家には?」

「いやその儀につきましては、拙者とんと存じませぬ」

「ううむ」と正雪考え込んでしまった。「不思議だな、どうしたんだろう? 島原城之介を捕えたことは、世間の者は知らない筈だ。ましてや紀州大納言様などが、知っておられる筈がない。それにも拘わらず知っておられる。そればかりでなく城之介めと、懇密の仲だと仰せられる。どうもまこととは思われない。曰くがなければならないぞ。……どんな事があろうと城之介めを、このまま逃がしてやることは出来ぬ。巻軸、巻軸、素晴らしい巻軸! こいつのありかを知るまではな。