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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
それらの内のたった一人さえ、下手人を見なかったというのは、実に前例のない奇怪事じゃないですか。全く想像の出来ない事柄です。不可能事です。だが、被害者の胸に短刀が突き刺っていたという事実が厳存する以上は、下手人がなければならぬ。彼は如何にしてこの不可能事を為しとげることが出来たか。僕はあらゆる場合を考えて見た。だがどんなに想像をたくましくして見ても、たった二つの場合を除いては、この事件は全く不可能に属します。二つの場合というのは、深山木さんが人知れず自殺をしたと見るのが一つ、もう一つは、非常に恐ろしい想像だけれど、戯れていた子供の一人、あの十歳にも足らないあどけない子供の一人が、砂遊びにまぎれて、深山木さんを殺したという考えです。子供は四人いたけれど、深山木さんを埋める為に、てんでんの方角から砂を集めることで夢中になっていたでしょうから、その中の一人が、外の子供に気づかれぬ様に、砂をかぶせる振りをして、隠し持ったナイフを深山木さんの胸にうち込むのはさして困難な仕事ではありません。深山木さん自身も、相手が子供なので、ナイフを突刺されるまでは全く油断していたであろうし、突刺されてしまっては、もう声を立てる隙もなかったのでしょう。