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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

おいら、もう帰るよ」

友之助は怒った様な顔をして、ピョコンと立上ると、実際帰り相な様子を示した。

「馬鹿をお云い、こんな遠い所から一人でなんか帰れやしないよ。君は道を知らないじゃないの」

「道なんか知ってらい。分らなかったら大人に聞くばかりだい。おいら、十里位歩いたことがあるんだから」

諸戸は苦笑して、暫らく考えていたが、書生に命じて、例の花瓶とチョコレートの包みを持って来させた。

「もう少しいておくれ、伯父さんがいいものをやろう。君は何が一番好き?」

「チョコレート」

友之助は立ったまま、まだ怒った声で、しかし正直な所を答えた。

「チョコレートだね。ここにチョコレートが沢山あるんだよ。君はこれがほしくないの。欲しくなかったら帰るがいいさ。帰ればこれが貰えないのだから」

子供は、チョコレートの大きな包みを見ると、一瞬間さも嬉しそうな表情になったが、しかし、強情に欲しいとは云わぬ。ただ、元の椅子に腰を下して、黙って諸戸を睨んでいる。

「それ見たまえ、君は欲しいのだろう。じゃあ上げるからね、伯父さんの云うことを聞かなければ駄目だよ。一寸この花瓶を御覧。綺麗だろう。