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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

この表紙の所が、態とはがしたみたいになっている」

私はふと、それに気附いた。先に初代から受取った時には、確かに完全な表紙だったのが、苦心をしてはがした様に、表面の古風な織物と、芯の厚紙とが別々になって、めくって見ると、織物の裏打ちをした何かの反古の、黒々とした文字さえ現われて来た。

「そうだね。確かに態々はがしたんだ。無論深山木氏がしたことだ。とすると、これには何か意味がなくてはならないね。深山木氏は何もかも見通していたらしいのだから、無意味にこれをはがす筈はない」

私は何気なく、裏打ちの反古の文字を読んで見た。すると、その文句がどうやら異様に感じられたので、諸戸にそこを見せた。

「これは何の文句でしょうね。和讃かしら」

「おかしいね。和讃の一部分でもなし、まさかこの時分お筆先でもあるまいし。物ありげな文句だね」

で、文句というのは、次の様に誠に奇怪なものであった。

神と仏がおうたなら

巽の鬼をうちやぶり

弥陀の利益をさぐるべし

六道の辻に迷うなよ

「何だか辻褄の合わぬまずい文句だし、書風もお家流まがいの下手な手だね。昔の余り教養のないお爺さんでも書いたものだろう。