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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

様にして置いて、何食わぬ顔で、そのまま自宅に立帰ったのである。(だが、この私の即興的な――内心いささか得意であった隠し場所が、決して安全なものでなかったことが、あとで分った)

それから翌日のお昼頃、私が諸戸を訪問するまで、別段のお話もない。その間を利用して、一寸変った書き方をして、私が直接見聞したことではないけれど、ずっと後になって、本人の口から聞知った所の、北川という刑事巡査の苦心談を、ここにはさんで置くことにする。時間的にも、丁度この辺の所で、起った出来事なのだから。

北川氏は先日の友之助殺しに関係した池袋署の刑事であったが、他の警察官達とは少しばかり違った考え方をする男であったから、この事件に対する諸戸の意見をも真に受けた程で、署長の許しを乞い、警視庁の人達さえ手を引いてしまったあとまでも、根気よく尾崎曲馬団(例の鶯谷に興行していた友之助の曲馬団のこと)のあとをつけ廻して、困難な探偵を続けていた。

その時分尾崎曲馬団は、逃げる様に鶯谷を打上げて、遠方の静岡県のある町で興行していたが、北川刑事は、殆ど曲馬団と一緒に、その地へ出張して、みすぼらしい労働者に風を変えて、もう一週間ばかりも、探索に従事していた。