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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
一週間といっても、引越しや、小屋組みで四五日もかかったので、客を呼ぶようになったのはつい二三日前であったが、北川氏は臨時傭いの人足になって、小屋組みの手伝いまでして、座員と懇意になることを努めたから、若し彼等の間に秘密があれば、とっくに知れていなければならぬ筈なのに、不思議と何の手掛りを掴むことも出来なかった。「友之助が七月五日に鎌倉へ行ったことがあるか」「その時誰が連れて行ったか」「友之助の背後に八十位の腰の曲った老人がいないか」などということを、一人一人に当って、それとなく尋ねて見たけれど、誰もかれも知らぬと答えるばかりであった。しかもその様子が決して嘘らしくはなかったのである。
一座の道化役に、一人の小人がいた。三十歳の癖に七八歳の少年の背丈で、顔ばかりが、本当の年よりもふけて見える様な、無気味な片輪者で、そんな男にあり勝ちの低能者であった。北川氏は最初この男丈けは別物にして、懇意になろうとも、物を尋ねようともしなかったが、段々日がたつにつれて、この小人は低能には相違ないけれど、仲々邪推深く、嫉妬もすれば、ある場合には、普通人も及ばぬ悪戯もする。