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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

「そうだ、一緒に行こうよ。僕の想像が当っているとすると、僕は君に取って謂わば敵の子だし、そうでなくても、人か獣か分らない様な僕の家族を見られるのは、実に恥しいけれど、若し君が許してくれるなら、僕は父や母に対して肉親の愛なんて少しも感じないのみか、却って憎悪を抱いている位なのだから、いざとなれば、君の味方をしてもいい。君と君の愛した初代さんの為なら、肉親はおろか、僕自身の命をかけても惜しくは思わぬ。蓑浦君、一緒に行こう。そして、力を協せて、島の秘密を探ろうよ」

諸戸はそう云って、目をパチパチさせたかと思うと、ぎこちない仕草で私の手を握り、昔の「義を結ぶ」といった感じで、手先に力を入れながら子供の様に目の縁を赤らめたのである。

さて、かようにして、私達は愈々、諸戸の故郷である紀州の端の一孤島へと旅立つことになったのだが、ここで一寸書添えて置かねばならぬことがある。

諸戸が父親を憎む気持には、その時口に出して云わなんだけれど、あとになって思い合わせると、もっともっと深い意味があったのだ。それは如何なる犯罪にもまして、恐るべく憎むべき事柄だった。人間ではなくて獣の、この世ではなくて地獄でしか想像出来ない様な、悪鬼の所業だった。