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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
そのボロ汽船に一日ゆられて、やっとK港に着くとK港そのものがうら淋しい漁師村に過ぎないのに、更らに断崖になった人も住まぬ海岸を、海上五里、言葉さえ通じ兼ねる漁師の小舟で、殆ど半日を費して、漸く岩屋島へ着くのである。
途中別段のこともなく、私達は七月三十一日の昼頃、中継ぎのK港に上陸した。
桟橋は即ち魚市場の荷上所で、魚形水雷みたいな鰹だとか、腸の飛び出した、腐りかかった鮫だとかが、ゴロゴロと転り、磯の香と腐肉の臭がムッと鼻をついた。
桟橋を上った所に、旅館料理と看板を出した、店先に紙障子の目立つ様な、汚らしい家がある。私達はとりあえずそこへ這入って、材料丈けは新鮮な、鰹のさしみで昼食をやりながら、女房をとらえて、渡舟の世話を頼んだり、岩屋島の様子を尋ねたりした。
「岩屋島かな。近いとこやけど、まだ行って見たこともありませんけど、何や気味の悪いとこでのんし。諸戸屋敷を別にして六七軒も漁師のうちがありますやろか。見るとこも何もない、岩ばっかりの、離れ島やわな」
女房は分り悪い言葉でこんなことを云った。
「その諸戸屋敷の旦那が、近頃東京へ行ったという噂を聞かないかね」