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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
単調な浪の音の外には、島全体が死んだ様に静まり返って、見渡す限り人影もなく、白っぽい小石道に、夏の日がジリジリと焦げついていた。
その時、極く間近い所で咳払いの音がして、私の夢見心地を破った。振向くと、小屋の窓に一人の老人が寄りかかって、じっと私の方を見つめていた。思い出すと、それは、私達がこの島に着いた日、この辺の岸にうずくまって、諸戸の顔をジロジロと眺めていた、彼の不思議な老人に相違なかった。
「お前さん、諸戸屋敷の客人かな?」
老人は私が振向くのを待っていた様に話しかけた。
「そうです。諸戸道雄さんの友達ですよ。あなたは道雄さんを御存じでしょうね」
私は老人の正体が知り度くて、聞返した。
「知ってますとも、わしはな、昔諸戸屋敷に奉公して居って、道雄さんの小さい時分抱いたり負んぶしたりした程じゃもの、知らいでか。じゃが、わしも年をとりましたでな。道雄さんはすっかり見忘れておいでの様じゃ」
「そうですか。じゃ、なぜ諸戸屋敷へ来て、道雄さんに逢わないのです。道雄さんもきっと懐かしがるでしょうに」
「わしは御免じゃ。いくら道雄さんに逢い度うても、あの人畜生の屋敷の敷居を跨ぐのは御免じゃ。