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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
来た時には夕闇の為に気づかなんだが、その道の中程の岩山の麓に、一寸した林があって、その奥に、一軒の小さなあばら家が見えていた。この島の人家は凡て離れ離れに建っているのだが、そのあばら家は、殊に孤立している感じだった。どんな人が住んでいるのかと、ふと出来心で、私は道をそれて林の中へ這入って行った。
その家は、家というよりも小屋と云った方がふさわしい程の小さな建物で、しかも、到底住むに耐えぬ程荒れすさんでいた。その小屋の所は小高くなっていたので、海も、例の対岸の牛の寝た形の岬も、さては、魔の淵と云われる洞窟さえも、凡て一望の内にあった。岩屋島の断崖は複雑な凸凹を為していて、その一番出張った部分に魔の淵の洞穴があった。
奥底の知れぬ洞穴は、魔物の黒い口の様で、そこに打寄せる波頭が、恐ろしい牙に見えた。見つめていると、上部の断崖に魔物の目や鼻さえも想像されて来る。都に生れ都に育った世間知らずの私には、この南海の一孤島は、余りにも奇怪なる別世界であった。数える程しか人家のない離れ島、古城の様な諸戸屋敷、土蔵にとじ籠められた双生児、開かずの部屋に監禁された片輪者、人を呑む魔の淵の洞窟、凡てこれらのものは、都会の子には、奇怪なるお伽噺でしかなかったのだ。