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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
僕はそんなことはしないよ」
と云った。
それから暫くの間、私達は各々そっぽを向いて、黙り込んでいたが、突然カタンという音がして、諸戸は私の机の上に俯伏してしまった。両腕を組合せて、その上に顔をふせて、じっとしている。私はそれを見て、彼は泣いているのではないかと思った。
「僕を軽蔑しないで呉れ給え。君は浅間しいと思うだろうね。僕は人種が違っているのだ。凡ての意味で異人種なのだ。だが、その意味を説明することが出来ない。僕は時々一人で怖くなって慄え上るのだ」
やがて彼は顔を上げてこんなことを言った。併し、彼は何をそんなに怖がっているのか、私にはよく理解出来なかった、ずっと後になってある場面に遭遇するまでは。
私が想像した通り、諸戸の顔は、涙に洗われたようになっていた。
「君は分っていてくれるだろうね。分ってさえいてくれればいいのだよ。それ以上望むのは僕の無理かも知れないのだから。だが、どうか僕から逃げないでくれ給え。僕の話相手になってくれ給え。そして僕の友情丈けなりとも受入れてくれ給え。僕が独で思っている。せめてもそれ丈けの自由を僕に許してくれないだろうか。