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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
でも、私は目的の土蔵の窓の下にたどりつくと、丁度その土塀の際にあった一つの岩を小楯に身を隠して、じっと、あたりの様子を窺った。塀の中や土蔵の窓から人声でも洩れはせぬかと聞き耳を立てた。
夕闇の中に、蔵の窓は、ポッカリと黒い口を開けて、黙りこんでいる。遠くの波打際から響いて来る単調な波の音の外には何の物音もない。「やっぱり夢を見ているのではないか」と思う程、凡てが灰色で、声も色もない、うら淋しい景色であった。
長い躊躇の後、私はやっと勇気を出して、用意して来た紙つぶてを、狙いを定めて投げると、白い玉が、うまく窓の中へ飛込んだ。その紙に、私は昨日からの出来事をすっかり書き記し、私達はこれからどうすればいいのかと、諸戸の意見を聞いてやったのである。
投げてしまうと、又元の岩の蔭に隠れて、じっと待っていたが、諸戸の返事は仲々戻って来ぬ。若しかしたら、彼は私がこの島を立去らなかったのを怒っているのではないかと心配し始めた頃、もう殆んど暮れ切って、土蔵の窓を見分けるのもむずかしくなった時分に、やっと、その窓の所へボンヤリと白い物が現われ、紙つぶてを私の方へ投げてよこした。