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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

目も鼻も口も、磨滅して、のっぺらぼうで、それが無人の境にチョコンと立っている姿を見た時は、私はギョッとして思わず立止った程である。台座に可成大きな石が使ってあるので、転びもせずに、幾年月を、元の位置に立尽していたものであろう。

あとで考えたことだけれど、この石地蔵は、昔は島の諸所に立っていたものらしく、現に北側の海岸などには、石地蔵の台座と覚しきものが残っていた程である。それが、子供の悪戯などで、いつとなく姿を消して行き、最も不便な場所であるこの西側の海岸の分丈けが、幸運にも今だに取残されていたものに相違ない。

私の歩き廻った所では、島中に、神仏に縁のあるものと云っては、右の二つ丈けで、その外には、諸戸屋敷の広い庭に、何様の祠だか知らぬけれど、可成立派なお社が建ててあったのを覚えている位のものである。だが、諸戸が私に探せと云ったのは、諸戸屋敷の内部のものでなかったのは云う迄もない。

烏帽子岩の鳥居は「神」である。石地蔵は「仏」である。神と仏。アア、私は何だか諸戸の考えが分り出して来た様だ。それは云うまでもなく、例の呪文の様な暗号文に関聯しているのだ。