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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

寝言の中で、彼は度々私の名を口にした。私というものが、彼の潜在意識中に、そんなにも大きな場所を占めているのかと思うと、私は何だか空恐ろしくなった。仮令同性にもしろ、それ程私のことを思い続けている彼と、こうして、そしらぬ顔で行動を共にしているのは、余りに罪深い業ではあるまいか。と、私は寝られぬままに、そんなことを真面目に考えていた。

翌日も、例の五時二十五分が来るまでは、私達は何の用事もない身体であった。諸戸には、却ってそれが苦痛らしく、一人で海岸を行ったり来たりして時間をつぶしていた。彼は土蔵の側へ近寄ることすら恐れている様に見えた。

土蔵の中の丈五郎夫婦は、あきらめたのか、それとも三人の男の帰るのを心待ちにしているのか、案外おとなしくしていた。私は気になるものだから、度々土蔵の前へ行って、耳をすましたり、窓から覗いて見たりしたが、彼等の姿も見えず、話声さえしなかった。唖のおとしさんが窓から御飯を差入れる時には、母親の方が、階段をおりて、おとなしく受取りに来た。

片輪者達も一間に寄り集って、おとなしくしていた。ただ私が時々秀ちゃんと話をしに行くものだから、吉ちゃんの方が腹を立てて、訳の分らぬことを呶鳴る位のものであった。