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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
心配していた雲も出ず、土蔵の屋根の東南の棟は、塀外に長く影を投げていた。
「鬼瓦がなくなっているから、約二尺丈け余計に見なければいけないね」
諸戸は私の腕時計を覗きながら云った。
「そうですね。五時二十分。あと五分です。だが、一体こんな岩で出来た地面に、そんなものが隠してあるんでしょうか。何だか嘘みたいですね」
「併し、あすこに、一寸した林があるね。どうも、僕の目分量では、あの辺に当りやしないかと思うのだが」
「アア、あれですか。あの林の中には、大きな古井戸があるんですよ。僕はここへ来た最初の日に、あすこを通って覗いて見たことがあります」
私はいかめしい石の井桁を思い出した。
「ホウ、古井戸、妙な所にあるんだね。水はあるの」
「すっかり涸れている様です。随分深いですよ」
「以前あすこに別に邸があったのだろうか。それとも、昔はあの辺もこの邸内だったのかも知れないね」
私達がそんなことを話し合っている内に、時間が来た。私の腕時計が五時二十五分を示した。
「昨日と今日では、幾分影の位置が違うだろうけれど、大した間違が生じることもあるまい」
諸戸は影の地点へ走って行って、地面に石で印をつけると、独言の様に云った。