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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

蓑浦君、地上の世界の習慣を忘れ、地上の羞恥を棄てて、今こそ、僕の願いを容れて、僕の愛を受けて」

諸戸は再び狂乱の体となった。私は、彼の願いの余りのいまわしさに、答える術を知らなかった。誰でもそうであろうが、私は恋愛の対象として、若き女性以外のものを考えると、ゾッと総毛立つ様な、何とも云えぬ嫌悪を感じた。友達として肉体の接触することは何でもない。快くさえある。だが、一度それが恋愛となると、同性の肉体は、吐気を催す種類のものであった。排他的な恋愛というものの、もう一つの面である。同類憎悪だ。

諸戸は友達として頼もしくもあり、好感も持てた。だが、そうであればある程、愛慾の対象として彼を考えることは、堪え難いのだ。死に直面して棄鉢になった私でも、この憎悪丈けはどうすることも出来なんだ。

私は迫って来る諸戸をつき離して逃げた。

「アア、君は今になっても、僕を愛してくれることは出来ないのか。僕の死にもの狂いの恋を受入れる情はないのか」

諸戸は失望の余り、オイオイ泣きながら、私を追駈けて来た。

恥も外聞もない、地の底のめんない千鳥が始まった。アア、何という浅間しい場面であったろう。