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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

そこは、左右の壁の広くなった、彼の洞窟の一つであったが、私は元の場所から五六間も逃げのびて、闇の片隅に蹲り、じっと息を殺していた。

諸戸もひっそりしてしまった。耳をすまして人間の気配を聞いているのか、それとも、壁伝いに盲目蛇みたいに、音もなく餌物に近づきつつあるのか、少しも様子が分らなんだ。それ丈けに気味が悪い。

私は闇と沈黙の中に、目も耳もない人間の様に、独りぼっちで震えていた。そして、

「こんなことをしている隙があったら、少しでもこの穴を抜け出す努力をした方がよくはないのか。若しや諸戸は、彼の異様な愛慾の為に、万一助かるかも知れぬ命を、犠牲にしようとしているのではあるまいか」

などと考えていた。とは云え、私も独りぼっちで、又闇の旅行を続ける気にはなれなんだ。

ハッと気がつくと、蛇は既に私に近づいていた。彼は一体闇の中で私の姿が見えるのであろうか。それとも五感の外の感覚を持っていたのであろうか。驚いて逃げようとする私の足は、いつか彼の黐の様な手に掴まれていた。

私ははずみを食って岩の上に横ざまに倒れた。蛇はヌラヌラと私の身体に這い上って来た。私は、このえたいの知れぬけだものが諸戸なのかしらと疑った。