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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
それは最早や人間と云うよりも不気味な獣類でしかなかった。
私は恐怖の為にうめいた。
死の恐怖とは別の、だがそれよりも、もっともっといやな、何とも云えぬ恐ろしさであった。
人間の心の奥底に隠れている、ゾッとする程不気味なものが今や私の前に、その海坊主みたいな、奇怪な姿を現わしているのだ。
地獄絵だ。闇と死と獣性の生地獄だ。
私はいつかうめく力を失っていた。声を出すのが恐ろしかったのだ。
火の様に燃えた頬が、私の恐怖に汗ばんだ頬の上に重なった。ハッハッと云う犬の様な呼吸、一種異様の体臭、そして、ヌメヌメと滑かな、熱い粘膜が、私の唇を探して、蛭の様に、顔中を這い廻った。
諸戸道雄は今はこの世にいない人である。だが、私は余りに死者を恥しめることを恐れる。もうこんなことを、長々と書くのは止そう。
丁度その時、非常に変な事が起った。そのお蔭で、私は難を逃れることが出来た程に、意外な椿事であった。
洞窟の他の端で、変な物音がしたのだ。蝙蝠や蟹には馴れていたが、その物音はそんな小動物の立てたものではなかった。もっとずっと大きな生物が蠢いている気配なのだ。
諸戸は私を掴んでいる手をゆるめて、私は反抗を中止して、じっと聞耳を立てた。