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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
その日も、又留守を食うのではないかと、心配しながら歩いていると、幸なことには、彼の家の半丁も手前から、もう彼の在宅であることが分った。というのは、可愛らしい子供等の声に混って、深山木幸吉の聞覚のある胴間声が、変な調子で当時の流行歌を歌っていたからである。
近づくと、チャチな青塗り木造の西洋館の玄関を開っ放しにして、そこの石段に四五人の腕白小僧が腰をかけ、一段高いドアの敷居の所に深山木幸吉があぐらをかき、みんなが同じ様に首を左右に振りながら、大きな口をあいて、
「どこから私ゃ来たのやら
いつまたどこへ帰るやら」
とやっていたのである。彼は自分に子供がないせいか、非常な子供好きで、よく近所の子供を集めては、餓鬼大将となって遊んでいた。妙なことには子供等も亦、彼等の親達とは反対に、近所ではつまはじきのこの奇人のおじさんになついていたのである。
「サア、お客さんだ。美しいお客さまがいらしった。君達、又遊ぼうね」
私の顔を見ると、深山木は敏感に私の表情を読んだらしく、いつもの様に一緒に遊ぼうなどとは云わないで、子供等を帰し、私を彼の居間に導くのであった。
西洋館と云っても、アトリエか何かのお古と見えて、広間の外に小さな玄関と台所の様なものがついている切りで、その広間が、彼の書斎、居間、寝室、食堂を兼ねていたのだが