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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

、そこには、まるで古本屋の引越しみたいに書物の山々が築かれ、その間に、古ぼけた木製ベッドや、食卓や、雑多の食器や、罐詰や、蕎麦屋の岡持などが、滅茶苦茶に放り出してあった。

「椅子がこわれてしまって、一つきゃない。マア、それにかけて下さい」

と云って、彼自身は、ベッドの薄汚れたシーツの上にドッカとあぐらをかいたものである。

「用事でしょう。何か用事を持って来たんでしょう」

彼は乱れた長い頭髪を、指でうしろへかきながら、一寸はにかんだ表情をした。彼は私に逢うと、きっと一度はこんな表情をするのだ。

「エエ、あなたの智恵をお借りし度いと思って」

私は、相手の西洋乞食みたいな、カラもネクタイもない皺くちゃの洋装を見ながら云った。

「恋、ね、そうでしょう。恋をしている目だ。それに、近頃とんと僕の方へは御無沙汰だからね」

「恋、エエ、マア、……その人が死んじまったんです。殺されちまったんです」

私は甘える様に云った。云ってしまうと、どうしたことか止めどなく涙がこぼれた。私は目の所へ腕を当てて、本当に泣いてしまったのだ。深山木はベッドから降りて来て、私の側に立って、子供をあやす様に、私の背中を叩きながら、何か云っていた。