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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
だが、愚な私は、彼がその時、私以上に何事を悟っていたか、何がかくも彼を興奮させたか、その辺の事には、まるで気がつかなんだ。
「心臓の真中をたった一突きで殺していると云ったね。泥棒が見とがめられた為の仕業にしては、手際がよすぎる。ただ一突で人間を殺すなんて、何でもない様だが、余程の手練がなくては出来るものではないのだよ。それに、出入りした跡の全くないこと、指紋の残っていないこと、何というすばらしい手際だ」彼は讃嘆する様に云った。「だが、そんなことよりも、もっと恐ろしいのは、チョコレートの罐のなくなっていた事だ。俺にもまだ、何故そんなものが紛失したのだか、はっきり見当がつかぬけれど、何だかただ事でない感じがするんだ。そこにゾーッとする様なものがあるんだ。それに初代の三晩も見たというよぼよぼの老人……」
彼は言葉尻をにごして、黙ってしまった。
私達はてんでの考えに耽って、じっと目を見合わせていた。窓の外には、昼過ぎたばかりの日光がキラキラと輝いていたが、室の中は、妙にうそ寒い感じだった。
「あなたも、初代の母親には疑うべき点はないと思いますか」
私は一寸深山木の考えをただして置きたかったので、それを聞いて見た。