轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
後になって考えて見ると、この事が、いや私の勤めているオフィスに彼女が入社して来たことすらが、誠に不思議なめぐり合せであった。彼女と私との間に醸された恋のことを云うのではない。それよりも、その時彼女に声をかけたばっかりに、後に私を、この物語に記す様な、世にも恐ろしい出来事に導いた運命について云うのである。
その時木崎初代は、自分で結ったらしい、オールバックまがいの、恰好のいい頭を、タイプライターの上にうつむけて、藤色セルの仕事着の背中を、やや猫背にして、何か熱心にキイを叩いていた。
HIGUCHI HIGUCHI HIGUCHI HIGUCHI HIGUCHI ……
見ると、レタペーパの上には、樋口と読むのであろう、誰かの姓らしいものが、模様みたいにベッタリと並んでいた。
私は「木崎さん、御熱心ですね」とか何とか云うつもりであったのだ。それが、内気者の常として、私はうろたえてしまって、愚かにも可成頓狂な声で、
「樋口さん」
と呼んでしまった。すると、響に応じる様に、木崎初代は私の方をふり向いて、
「なあに?」
と至極落ちついて、だが、まるで小学生みたいなあどけない調子で答えたのである。