轻松读懂日语经典作品
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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
彼女は樋口と呼ばれて少しも疑う所がないのだ。私は再びうろたえてしまった。木崎というのは私の飛んでもない思違いだったのかしら。彼女は彼女自身の姓を叩いていたに過ぎないのかしら。この疑問は少しの間私に羞恥を忘れさせ私は思わず長い言葉を喋った。
「あなた、樋口さんて云うの? 僕は木崎さんだとばかり思っていた」
すると、彼女も亦ハッとした様に、目のふちを薄赤くして、云うのである。
「マア、あたしうっかりして。……木崎ですのよ」
「じゃあ、樋口っていうのは?」
あなたのラヴ? と云いかけて、びっくりして口をつぐんだ。
「何んでもないのよ。……」
そして木崎初代は慌てて、レタペーパを器械からとりはずし、片手で、もみくちゃにするのであった。
私はなぜこんなつまらない会話を記したかというに、それには理由があるのだ。この会話が私達の間にもっと深い関係を作るきっかけを為したという意味ばかりではない。彼女が叩いていた「樋口」という姓には、又彼女が樋口と呼ばれて何の躊躇もなく返事をした事実には、実はこの物語の根本に関する大きな意味が含まれていたからである。
この書物は、恋物語を書くのが主眼でもなく、そんなことで暇どるには、余りに書くべき事柄が多いので、それからの、私と木崎初代との恋愛の進行については、ごくかいつまんで記すに止めるが、この