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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
それからもう一つは、ある日、初代の墓参を済ませて、いつも歩き廻る場末の町を歩いていた時、それは省線の鶯谷に近い処であったが、とある空地に、テント張りの曲馬団がかかっていて、古風な楽隊や、グロテスクな絵看板が好ましく、私はその以前にも一度そこの前にたたずんだことがあったのだが、その夕方、何気なく曲馬団の前を通りかかると、意外なことには、かの諸戸道雄が、木戸口から急ぎ足で出て行く姿を認めたのである。先方では私に気づかぬ様であったが、恰好のよい背広姿は、まぎれもなく私の異様な友人諸戸道雄であったのだ。
そんなことから、何の証拠もないことであったが、私の諸戸に対する疑いは、益々深められて行った。彼は何故初代の死後、あんなに度々木崎の家を訪れたのであるか。何の必要があって、問題の七宝の花瓶を買取ったのであるか。又彼が丁度深山木の殺人現場にまで来合わせていたのは、偶然にしては少々変ではなかったか。その折の彼のいぶかしい挙動はどうであったか。それに、気のせいか、彼が彼の家とはまるで方角の違う鶯谷の曲馬団を見に来ていたというのも、何となく異様な感じがするではないか。