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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

そうした外面に現われた事柄ばかりではなく、心理的にも諸戸を疑うべき理由は充分あった。私としては非常に云い悪いことではあるが、彼は私に対して常人には一寸想像も出来ない程強い恋着を感じているらしかった。それが彼をして、木崎初代に心にもない求婚運動を為さしめた原因であったとしても、さして意外ではないのである。更に、この求婚に失敗した彼が、初代は彼に取って正しく恋の敵だったのだから、感情の激するまま、その恋敵を人知れず殺害したかも知れないという想像も、全く不可能ではなかった。果して彼が初代殺しの下手人であったとすると、その殺人事件の探偵に従事し、意外に早く犯人の目星をつけた深山木幸吉は、彼に取って一日も生かして置けぬ大敵であったに相違ない。かくして諸戸は、第一の殺人罪を隠蔽する為に引続いて第二の殺人を犯さねばならなかったと想像することも出来るではないか。

深山木を失った私は、こんな風にでも諸戸を疑って見る外には、全然探偵の方針が立たなかった。私は熟考を重ねた末、結局、もう少し諸戸に接近して、この私の疑いを確めて見る外はないと、心を定めた。そこで、深山木の変死事件があってから、一週間ばかりたった時分、会社の帰りを、私は諸戸の住んでいる池袋へと志したのである。