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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

私は先方から見られぬ様に気をつけて、広い前庭をあちこちと探して見たが、老人の姿は消えたかの様に、どこの隅にも発見出来なかった。彼は已に屋内に這入ってしまったのであろう。そこで、私は思い切って、玄関のベルを押した。諸戸に逢って、直接彼の口から何事かを探り出そうと決心したのだ。

間もなく扉が開いて、見知り越しの若い書生が顔を出した。諸戸に逢い度いと云うと、彼は一寸引込んで行ったが、直ぐ引返して来て、私を玄関の次の応接間へ通した。壁紙なり、調度なり、仲々調和がよく、主人の豊かな趣味を語っていた。柔かい大椅子に腰かけていると、諸戸は、酒に酔っているのか、上気した顔をして、勢いよく這入って来た。

「ヤア、よく来てくれましたね。この間、巣鴨では本当に失敬しました。あの時は何だか工合が悪くってね」

諸戸は快い中音で、さも快活らしく云うのだった。

「そのあとでもう一度お逢いしていますね。ホラ、鎌倉の海岸で」

決心をしてしまうと、私は存外ズバズバと物が云えた。

「エ、鎌倉? アア、あの時君は気がついていたのですか、あんな騒動の際だったので、態と遠慮して声をかけなかったのだが、あの殺された人、深山木さんとか云いましたね。