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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
癰だったのだ。癰といえば、命とりである。呉用は愕然として言った。
「夢はまぎれもなく正夢だ。梁山泊へ帰れとのお告げなのにちがいない。ここにいては宋先生の治療もかなわず、全軍もまた危殆に陥ちよう。すわ大事、すわ大事」
俄に全軍、引揚げと急にきまった。けれど、梁山泊にも名医はいない。医師はどうするか? 評議となった。
すると、浪裏白跳の張順が、その役目を買って出た。――自分の郷里、潯陽江のちかい所に、江南随一というはれもの医者が住んでいる。そいつを捜して、梁山泊へ連れて行きましょう、というのだった。
「おお、そんな名医がいるならぜひ行ってくれい。一日も早くだ。手違いのないように」
と、呉用は彼に、かねで百金、路銀三十両をあずけて、その場から西へ立たせた。――そして即日、戦野の幕舎千旗を払って退却に移ったが、北京府の城内では、この変を知っても、たびたび奇計に懲りていたので、
「またも騙しの手か?」
と、狐疑したままで、ついつい、追撃にも出ずにしまった。
一方は、旅を急ぐ一人の男、張順。
幾十日の風雪を凌いで、やっと揚子江のほとりに出ていた。この日も雪は梨の花と散りまがい、見れば、江岸の枯れ芦の叢から、一ト筋の夕煙が揚っている。