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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
ここは神殿の奥だ、神威を穢したお怒りだろう、罰があたる、血ヘドを吐く、目がつぶれるぞ――。そんな恐怖を口々に、捕手頭の呶号もきかばこそ、みな飛び出してしまったのだ。しかし、趙能、趙得はまさか逃げも出来ないのだろう、歯がみをして踏みとどまり、
「ばかな奴めら。狐狸はいるだろうが、神や仏なんてものがあるならお目にかかりてえくらいなもんだ。おうっ兄弟、その御厨子の簾を引ッ剥いでみろ。宋江のやつ、もしやそこかもしれねえぞ」
「こころえた!」
だが、どうしたことだろう。一陣の悽風とともに、稲妻のような青白い一閃を浴び、同時に耐えきれぬ眩いにあたまを抱えたまま、二人ともぐるぐる独楽みたいに廻って気を失いかけたのである。――つまりはたった今、お目にかかりたいものだと言っていたものにまざと出会ったもののように趙能、趙得二人もまた、魂を消し飛ばして、どこかへ逃げ失せてしまったのだった。
ふしぎはそれのみでない。刹那、宋江もまた身を真二つに斬られたような紫電を感じてうッ伏していた。そして落雷の異臭では決してない、いや、馥郁といってもよい香気が自分に近づいている思いだった。