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とうおういぶん

東奥異聞

佐々木 喜善

「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页

青空文庫

こういう口碑の残っているところを、いまでも「千把萱」という名をつけて呼んでおります。

この話は数多い継母譚のうちの一つで、そして今を昔に通じて変わらぬ普通の人情を取り扱った口碑であります。ずっと草深い山里の人々のうえの話であるから継子を殺そうというような悪企みにも、毒薬や刃物を用いることを知らず、また自分のかわいい子を無事になし終えるには千把のカヤの束のなかに包んで投げたら助かろうというあさはかな考えもしたのであります。この点なども貧しい農民の生活をありのままに、そのままに映したおもしろい話であります。

愚かしやな、人情ほど哀れなものはありません。つぎにそういう山奥の人々の間に起こったあさはかな愚かしやかな話を一、二いたしましょう。ある山里に盲目の老婆があって一人の息子をもっていた。この母子二人暮らしのうちはひどく仲良しであったのに息子が大人になり、そこに嫁子がくると、昨日に変わって老婆はよけい者にされるようになった。もちろんそのように仕むけさせたのがこの他人の嫁子で、目が見えぬからなにもせずに老婆がいつも寝床のなかで、シラミをとって噛みつぶしているのを聴いては、あれあのとおり老婆さんは寝ていてあるもない(ありもしないとか、なけなしのというほどの意味)米を盗んで食っているから、このごろ米が不足してしようが