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とうおういぶん

東奥異聞

佐々木 喜善

「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页

青空文庫

三

三

前の口碑でたった一つ欠所があるように思われることは、樵夫の夢に現われて伐りかたを伝授したものが、その木になんの縁由もないように話されていることである。この伝承の伝統ではそうでないはずであるが、これは話者もながい間には忘れ聞き手も不注意に聞いた罪がある。もっとも自分も又聞きであるから断然とこうであろうとはいえぬが、調査した人はある種の役人であったから、こういうふうな口碑伝説にはおおいに重きをおかなかったかもしれぬ。この役人の仲間にはおうおうそういう人たちが多い。先般地方を巡視された政府すじの史跡天然記念物保存調査に関する考察官(?)とかいう人の演説とか座談とかを仄聞するに、口碑伝説もいいが、ただ取っつかまえどころがなくて困るといわれたとのことである。すなわちこの流儀である。れっきとした大家の古文章古記録に載らず石塊か古墳かがなくてはならず、社寺、堂宇等の縁起書に拠らねばならぬ調査法のみが学問ではなくなった。形態がない思想の探索はどうにも土器や貝塚ばかりを捜し歩いている人たちには取っつかまえどころの見つからぬのがごもっとも千万でむりのない話である。