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とうおういぶん
東奥異聞
佐々木 喜善
「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页
二
二
私の知っているかぎりで、奥州にはもう一つネズミの起原の話があります。その話は『江刺郡昔話』という私の本のなかにも書いておきましたから、ここでざっとその話の梗概だけをいってみましょう。ただしここでちょっと言いたいことは、奥州ではお正月にかぎってネズミのことを嫁子と呼び、お正月の晩などにはとくに嫁子だちの餅といって、小餅をとって土蔵の大黒柱の下や、その他家のなかの平素ネズミの通うような箇所に置くことがあります。私だちも毎年その季節になると嫁子、嫁子と言いながら、そのわけもわからずにおりましたが、先年江刺郡という土地の民間伝承を収集しているうちに、はからずも左のような童話をえたので、私は非常にうれしかったのです。
われわれの間にはいま、名称や言葉だけが残っていて、その起原とか由来とかの本話がとんと民間の記憶から忘れられたものが多くあります。私のこのような話などももうすこしの間気がつかずに放っといたなら、すでに取返しのつかぬ運命に落ちいっていたのだろうと思います。そうなったら日本民族の新しい文化のために、まことに大きな損害でございます。皆さまも民間に残っている話にとくに別な愛護と追惜とをおもちくださいまし。