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とうおういぶん
東奥異聞
佐々木 喜善
「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页
巨樹の翁の話
一
私たち自身の今日の生活によりむずかしい美しい磨きをかけてゆくには、こうした昔の人たちの心の生活をも考え味わってみねばなりません。深く潤いのある心持、真に感じ味わってゆくところの心持ほど今日のわれわれに必要なものはありません。私は間違っていようがいまいが、そういう心持で、まさに滅びようとしつつある、民間伝承を収集してゆきたいと思っております。
巨樹の翁の話
一
樹木伝説のうちに、ある巨樹を伐り倒そうとするにあたりその伐り屑が翌日になれば元木に付着していて、どうしても伐り倒すことができなかったが、ある事よりその樹木のために悩まされているものの助けによって伐り倒し成功するという伝説が諸所にある。いまその伝説をわが奥州地方に求めると、自分の手近にある東奥古伝という写本に、稗貫郡高松(1)という所の山に、高松という孤松一樹ありその高さ虚空に聳え重葉四隣を蔽うた。この樹の精霊、時の帝闕を犯し奉りしによって、勅宣下って伐り倒したとの言伝えであるが、時代さらに確かならずと書いてある。この書の著者は、元祿の初めころに奥州に下り花巻城主北氏に寄寓していた京都の画家松井道円(2)という者で、こういう奥の口碑を写しながらも心が故山に馳せていたとみえて、この文のくだりに下のような付説を録している。