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とうおういぶん
東奥異聞
佐々木 喜善
「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页
この話のほうは生まれながらにそうなれとの因縁でもって山河の主に嫁ぐということである。そこに大きな差異があるのである。
この話例の口碑で注意を要するところは、その誘拐される娘なり青年なりが、われわれの目にはいったん死亡の形式になっていることである。私はこういう例を多く知っていると非常にこうつこうであるけれども、いまはそれを探索する機をえないのもやむをえないことである。けれどもそれに類似の話を一、二記してみよう。
陸中遠野郷北川目の者ら五、六人の同行で出羽の湯殿山をかけにいったことがあった。かけ下してきて深林帯の尾根に一行がさしかかるといちばんあとに立ちすこし遅れていた大下某という男、顔色を変えてみんなに追いつき、いまの呼び声を聴いたかという。みんながなんの呼び声かと聞くと、おやそれではおまえたちには聴こえなかったのか、いまこの深沢で女の叫び声がしたが、どうもそれがおれの女房の声のようであったといったが、それから鬱々として楽しまず家に帰るととうとう病み出して死んだということ。その女房というのは三年ばかり前に死んでこの世にいなかった者だということである。