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とうおういぶん
東奥異聞
佐々木 喜善
「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页
上巻、奥羽地方)。こればかりではわれわれはどうしてもその石を千曳きせねばならなかった由来を見つけえぬ。そもそもなんのためにその石を曳き動かしたかの話は別に考えてみねばわからぬのである。
しかしながら無学者がいくら考えたってよき分別も浮かばぬのが道理である。間違っていようがいまいがとにかく臆面なく仮説をたてそれはこんなものだろうくらいのところを云為するのも学問進歩の一程径かもしれぬが、さしあたりの自分にはそんな気持もあいにく出ぬ。そうかというてまた広く類似の資料を収集し展並して諸君によき指示を呈上するというようなことも田舎にいてはできぬ芸当である。けれども人間には古今通じて分相応というものがある。田舎のワラビや草餅が都会の貴人にはまた珍しかろうくらいの心持でわが貧しい手帳を引っくり返すのも、あるいは美食のみなさんには一興であるかもしれぬ。
どうも昔の神々には御遷座ましますことを平気でやるという悪い癖があった。いわゆる飛んだ神、夜逃げの石、何々越し、何々越しの峠というのがそれらの名ごりの名まえである。それが一人で背負いかつ片手で懐中にでも隠すにいいオシラや権現頭の場合には盗んだようにもできたが、おうおう境の石神などになるとそう手がるにもゆかぬことがあった。