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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
05 一九三八年(昭和十三年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页
そういうところがあるから、顕さんは心配しているんです。」
ほんとに、あの位親切に思うちょっての人はほかにありません。それはそう思っていらっしゃる。やっと御気がすこし落付いて、夕飯をたべて、では十九日迄のばすということになりました。私が会って、顕さんの云うちょること手紙で書いてもろうたらようあります。というのはTさんが反対しましたので。
きょうは、降りこめている。茶の間で、濡れた八ツ手や青木の葉が光っている庭、すっかり雨を吸いこんでしめったとなりの家の羽目の見える硝子障子をしめきって、小母さまは大仏の「由井正雪」を、Tちゃんは子母沢の「国定忠治」をよんでいる。私もそのわきでヘッセをよんでいたが、どうもどうも二人の読書の姿にユーモアがあって、ひとりで笑えて来てしかたがない。その神妙さが、何とも云えずユーモラスで、さぞ腹では、あの鍋だの、あの皿だのとそわついていらっしゃるだろうと思うと、可笑しいやら気の毒やら歯痒いやらで、本当に面白い。慰問のため、うちではきいたこともないラジオのレビューというのを午後二時半からやろうというプランを立てたり、私は叱ったりはげましたり、御機嫌をとったりに大童です。