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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

05 一九三八年(昭和十三年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页

青空文庫

金曜日は、出かけにうすら寒かったので、ああやってお目にかかったときはコートを着ていたが、ずっと広っぱの水たまり道を歩いているうちにすっかり暖くなってしまって、鋪道へ出たら、街路樹の支柱へハンドバッグなどのせて、コートを脱ぎたたんで持ってかえりました。そしたら、女学校の上級生であった時分、女子大へ一寸通っていた時分のことをはっきり思い出した、朝雨がふってかえりに晴れている。すると、私共はその頃和服で袴の上にバンドをつけて通っていたから、合羽をたたんで、お包みの下へもって、傘をもって、袴に靴という姿で、大いに気取って歩いたものでした。その時分は、森鴎外も、私が肴町へ出る時刻、馬にのって、立派な顔立ちでよく通りました。

土曜日は茂輔氏の『あらがね』(小山出版)の会でいろんな人の顔といろんなテーブルスピーチをききました。高見順君「テーブルスピーチというものをやります」という冒頭。

日曜日には、わが家として特筆大書すべきことがありました。子供たちが皆一年だけ進級したので(達枝は来年だが)そのお祝いをしてやることにしてあった。子供は大楽しみをするからあまり前もって云って、何かさしつかえると実に相すまないから前晩までふせておいて、日曜日は栄さん、本間さんの細君、ひさ、私もちょいちょい手伝って、お釜二つに五目ずしをつくり