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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
二
どうも、そうらしい。藤次め、時々わしを措いて、一人で通っているにちがいない」
二
「――な、そうだろう」
「いやなお人。――ホ、ホ、ホ」
「何がおかしい。そなたの母も、うすうす藤次に思いを寄せているのだろうが」
「知りません、そんなこと」
「そうだぞ、きっと。……ちょうどよいではないか、恋の一対、藤次とお甲、わしとそなた」
そしらぬ顔をしながら、朱実の手の上へ手をかさねると、
「いや」
と、朱実は潔癖な弾みを与えて、膝から振り退けた。
振りのけられた手は、かえって清十郎を強くさせた。起ちかけた朱実の小がらな体を抱きすくめ、
「どこへ行くか」
「いや、いや。……離して」
「まあ、居やれ」
「お酒を。……お酒を取って来るんですから」
「酒などは」
「お母あさんに叱られます」
「お甲は、あちらで、藤次と仲よく話しおるわ」
埋め込む朱実の顔へ顔をすり寄せると、ぱっと火でもついたような熱い頬が必死に横を向いて、
「――誰か来てえっ。お母あさん! お母あさん!」
と、ほん気で叫んだ。
離した途端に、朱実は、袂の鈴を鳴らして、小鳥みたいに奥へかくれた。彼女の泣きこんだ辺りで、大きな笑い声がすぐ聞えた。