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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
「後から連れが尋ねて来るはずゆえ、もう一両日泊めてもらいたいが」
というと、
「どうぞ」
小女が階下の主に告げたのであろう、やがて、その女主人があいさつに見えた。三十ぐらいな肌目のよい美人である。武蔵がさっそく不審をただすと、その美人が笑って話すにはこうであった。
実は自分は、観世なにがしと呼ぶ能楽師の後家であるが、この奈良には今、素姓の知れない牢人がたくさん住んでいて、風紀の悪いことはお話にならない。
そうした牢人たちのために、木辻あたりには、いかがわしい飲食店や白粉の女が急激にふえているが、不逞な牢人たちは、そんなところではほんとに娯まない。土地の若い者などを語らって、毎晩のように「後家見舞」と称して、男気のない家を襲ってあるくことが流行っている。
関ヶ原以後は、すこし戦がやんでいる形にあるが、年々の合戦で、どこの地方にも、浮浪人の数がおびただしく増している。そこで、諸国の城下に、悪い夜遊びが流行ったり窃盗沙汰だの強請者が横行している。こんな悪風は、朝鮮役後からの現象で、太閤様が生んだものだと恨んでいる声もあるとか。とにかく、全国的に今は悪い風紀が漲っている。