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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
僅かなもんで恥ずかしいが取っといてくれ、埋め合せはあとでするから」
「埋め合せだって」さぶは訝しげな眼つきをした、「なんのことだい」
「まあいい」と栄二は云った、「晩めしに二人で、なにかうまい物でも取るとしようか」
書付けをしらべるまでもなく、栄二の預けた金だけで、この家具什器が買えるわけはない、さぶの金が加わっていることは疑う余地がなかった。脚気を病んで帰郷しているあいだ、葛西の家でも相当な食い扶持を取られたであろう、そのうえこれだけの世帯道具を買い揃えたのだから、おそらくさぶは財布の底をはたいたに違いない。そう思ったけれども、これまた礼を云って済むことではないから、彼は話をそらしたのであった。
家主の源助と隣りの増六の家、そしてまた通りを隔てた、向う三軒へ挨拶にいってから、二人で晩めしを喰べた。めしだけはさぶが炊き、表通りの「魚喜久」という仕出し屋から、汁と焼物、刺身、酢の物などを取り、酒も二本つけた。これまでの習慣どおり、二人は徳利も盃もべつべつで、酌をしあったり盃のやりとりをするようなことはなかった。
「これはおれたちの店だ」栄二は初めの盃を啜ってから、ぐるっと家の中を見まわした、「――この店から、おれたちは始めるんだ、さぶ、しっかりやろうぜ」