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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
――だが、それがしが生きたい仔細は、決して、小我の迷慾ではない。わが君、あのまだお若いお館の御行末、また越後一国の将来、如何あらんとか、これからの百難苦闘を思うとき、それがしは、この生命の短きをかなしむ。――甲斐一国が敵たるだけなら、それは恐るるにも足らぬ。お館の御器量として、やわか信玄晴信の征圧に亡ぶようなことは絶対にない。……だが、わが上杉謙信なる君の御胸には、もっと大きな御願望があるを知らぬか」
「…………」
「黒川。おぬしの祖先も、わしが祖先も、遠くは、新田氏の一族、脇屋義助がながれ、この血のうちには、まだ脈々と、義貞公以来のものが、失せてはおらぬはず……。上杉一藩にはお館をはじめとし、その精神をもって、武士道の本則とし、弓矢の大願となしていること、出陣のたびにする神前の誓いをもっても、確と、分っているはずではないか」
「いや、それとても、越後武士の名を辱めては」
「生きながらえて、碌々と、なすこともせず、死んだら笑え。さもない間の毀誉褒貶など、心にかけることもあるまい。――使者としてのお役目は果した。捕まっても、生きていても何の恥かあらん。……方々も、それがしに倣い給え」