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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
一 家職のほか、ひまあらば、学文心がけべきこと。
一 詩歌は、公家の職なりといへ、武人たる者、少しは心ありてよし。無きには優る。
一 君言と臣職とは、風と草木のごとし、之を守るに鉄石なるを、実忠の臣とはいふ。
一 諸民に対し、一言一句も、争ひ論ずるなかれ、わが知ることを、人の語るもおもしろきもの也。わが知らざることを、人の語るに聞くは、事を知るの道なり。
古諺に曰ふ。
杉はすぐ、松は曲りて、おもしろや。おのれおのれの、こころ/″\に。
一 「淋し」といふこと思ふべからず。見ぬ世の人を友とするも得。淋しと思はゞ家職の文を開け。千万の多事急務、その内にあり。
箇条はなお多いが、部分的にこういう一斑を見ただけでも、謙信がいかに日頃から士の養成に細心な気くばりを傾注しているか――またそれを鉄則としている全家中が黙々と有事の日に備えて自分を鍛え合っているか――想像以上なものがそこにはあった。
けれど、そういう鉄則や組織はあっても、それに血も通わないような形態だけのものを持って誇っている君臣ではなかった。以上のような鉄則にも人間の血が脈搏っていたし、藩という組織もまた、人間と人間、たましいとたましいを以て結ばれていた。